還暦おじさんが自転車で通った京東市場!ホジュン・馬医で蘇る韓国一の漢薬市場

還暦を過ぎたおじさんが韓国留学して、ソウルの街を自転車で走り回る。それだけでもニュースになるかも知れません。この記事はソウルの市場でも京東市場に良く行った私の思い出を振り返ったものです。

その経験が帰国後ホジュンや馬医を見る際、強烈に蘇ってくるのです。韓国時代劇のホジュン、馬医の中にある漢薬、庶民の姿が今もある世界が、ソウルヤンニョン(薬令)市場の伝統を受け継ぐ京東市場の漢薬売り場なのです。

ホジュン・馬医で描かれた朝鮮医療の世界

韓国ドラマのホジュンと馬医では、鍼灸と漢方薬による治療のシーンがたくさん出て来ますが、それが当時の医療の根幹を占めていたことが良く分かります。韓国ドラマサンドでもサンオクが朝鮮人参の中国貿易で大成功したように、朝鮮人参の中でも紅参(ホンサム 홈삼)と呼ばれるものが、今の韓国でも漢方薬として一番良く飲まれているようです。

ホジュンはドラマにあるように、晩年には韓国中の山野を跋渉し薬草を集め、『東医宝艦』という民のための処方書を著したことで有名で、この書は日本の江戸時代の医学にも大きな影響を与えたようです。

このように朝鮮時代には漢方薬は医療の中心を為し、現在の韓国でも漢方薬は日常的に取り入れられ、街には漢方医院というものがあり、診察を受け、自分の体に合う漢方薬を聞いて使用することが行われています。日本でも朝鮮人参の効能は広く知られ、さまざまな健康サプリメントとして発売されてます。

私は還暦を過ぎてソウルに留学した時(2012年~2013年)、下宿の近くに京東市場(キョンドン シジャン 경동 시장)という韓国最大の漢方薬を取り扱う市場があったので、もの珍しさに誘われて10回以上は行ったと思います。韓国では京東市場でなくても、朝鮮人参専門店というものが多く、どこに行っても五味茶など様々な漢方薬が韓国土産物として売られています。

自転車でのソウルの市場巡り

私はソウルに到着した日から自転車を買って、市内を縦横無尽に走り回りました。お陰でソウルの地理については今でも頭の中にあります。中でも京東、東大門、広蔵、南大門といった伝統市場は人が集まり、見てるだけでも楽しいので暇を見つけては行ったものです。

自転車による市内巡りのある日、往十里(ワンシムニ)駅を帰りの目印に街を走っていたら、突然、明らかに食肉市場と思われる建物に出会いました。興味深々入ってみると、いきなり豚の頭が並んでいたのには、日本では見たことのない風景なのでビックリ仰天しました。

日本のお彼岸である秋夕(チュソク)や、1919年の独立運動を祝う三・一節(サミルジョル)の時なんか、公園の祭壇に豚の頭が飾ってあるのを見ました。何か縁起がいいんでしょう。でも食肉市場にあったのだから、どうにかして食べるものなのでしょう。その場所は後で調べたら馬場洞(マジャンドン)という所にある、ソウル最大の食肉市場だと分かりました。

東大門は行った回数がすくないので印象は薄いんですが、それでも繊維関係の店が多いことは店舗を覗いて分かりました。広蔵市場は食べ物屋さんが多い印象、私が見ても何だか分からない食べ物を、オフィスから出てきた若い女性達が気軽にお昼として食べていました。南大門市場はキムチを始め漬物の種類が豊富な市場という印象でした。その他、平和市場とか電気市場とか無数の市場があるはずです。

京東市場が一番好きだった理由

数ある伝統市場の中でも京東市場が一番好きになった理由は色々ありますが、まず、下宿に近くて気軽に行けること、ソウルに着いた翌日には、下宿のおばさんに聞いて京東市場に枕と毛布を買いに行きました。他の伝統市場にも行ってみましたが、京東市場が余りにも規模が大きく(約10万平方メートル、アメ横はわずか500メートル)一日で見切れない、そして何でもあることが魅力でした。

肉、野菜、魚などの食料品はもちろん、生活に必要なものはなんでも揃う、文字通りソウルの台所という感じでした。もちろんコンビニやスーパーもありましたが、生産者から直接手に入るという魅力からか、やはり庶民は伝統市場に行くようです。京東市場に行くとまずその品物の量に圧倒されます。

京東市場の歴史は朝鮮戦争後にソウルの人々の生活が回復し始めた頃、清凉里(チョンニャンニ)駅近くの空き地に自然発生的に形成されたと公式には言われています。しかし、ソウルヤンニョン(薬令)市場としてはもっと前の李朝時代からあったという石碑を現地で見た記憶があります。京東市場から清凉里駅へは私の好きなサイクリングコースの一つでした。

京東市場で驚いたもの

京東市場でまず驚いたのは、カイコが売っていたことです。日本でも長野県あたりでは蜂の子を食べるのは知ってましたが、食べるカイコは初めて見ました。それから同じ野菜でも日本の物と色や形が違うこと。かぼちゃは日本のように深緑の皮でなく、茶色のものでバカでかいものが積み重ねられた姿は壮観でした。とうもろこしは日本のように黄色一辺倒でなく、白と紫が混じったもの、紫色だけのものなどであり、まさに「所変われば品変わる」でした。

魚を売ってる処では、冷凍した鯖などを叩いて氷を払いながら、路上で売ってる姿が見えました。そんな魚を通りすがりの人が寄って来て一人、二人と買って行く姿に逞しい生活力を感じました。

さて、漢薬市場ですが、私は漢薬の知識がゼロなので、見ても何も分かりませんでしたが、朝鮮人参とかキノコは分かりますが、明らかに山から採ってきた木の束だったり、何かの粉末にした大量の袋などは見ても分かりませんでした。

市場の例外にもれず、広い市場を取引が済んだ業者の小型トラックの往来でやかましく歩くのも危なっかしかったですが、何とも言えない昔から続く人間の営みの温もりを感じたものです。

ドラマと市場が重なる瞬間

ホジュンと馬医のドラマなどは帰国してから観たのですが、ドラマで薬草の名前が出てきても何も分かりませんが、京東市場の漢薬を売っている姿だけは思い出すのでした。

サンドの場合はもっと強烈でした。サンドに出て来る真鍮売りや絹売りの姿は京東市場の姿そのものなのです。そこには朝鮮時代から変わらない軒を並べて物を得る市場の姿がありました。

ホジュンのドラマでは、ホジュンの母ソン氏と妻のイ・ダヒが路上で餅を売るシーンがありますが、それはまさに京東市場で見た路上で魚を売る姿と重なるのです。

京東市場の近くに住み、京東市場を何度も見たことが。今、韓国ドラマの理解に役立つとは、いや、韓国人の生活に密着した、京東市場こそ、どこよりも韓国・朝鮮なのだ!と思いました。それが、キャンパスだけに閉じこもらず、ソウルの街を自転車で走り回った私の、留学生活で得た大事なものになりました。

還暦を過ぎて自転車でソウルを走り回ったあの日々が、今も韓国時代劇を見るたびに鮮やかに蘇って来るのです。

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