ドラマを見て原作が気になり実際に読んでみました。すると、主要人物の多くがフィクションだったことに驚きました。ドラマと原作はどう違うのだろうと思いませんか?この記事は実際に原作を読んだ私が感じたドラマとの違いをまとめたものです。
著者は「日本の皆様へ」で書いてます、「私は今こそ孔子が語った「利」よりも「義」を追求する正しき道で「商業の道」を通じて企業家たちも仏となりうると固く信じるに至りました」。「経済の新哲学」をテーマに実在した林尚沃という商人を書いた著者の意図が分かります。
原作者とサンオクとの出会い
作者は上巻全13章のうち、実に3章をこの本の執筆に3年もかけた、いきさつの解説に費やしています。それほどこの本の執筆に至るまでは、というより著者とサンオクとの出会いは劇的なものでした。
1999年、起平グループの金起燮(キム・ギソブ)会長がドイツで交通事故でなくなり、かねてから知り合いであった著者は、金会長の遺品(ポケットの中)から「財上平如水 人中直似衡」と書いた紙片が発見され、その調査を頼まれる。
著者はその紙片の文字の由来を尋ねるため、漢学者の家に行き、そしてついにその文字の由来が判明したのでした。それは林尚沃(イム・サンオク)が書いた『稼圃集』(カボジブ)という本に出ている文でした。稼圃はサンオクの号で1800年代中盤の平安北道、義州に生まれた代表的な義州商人でした。著者は遺族が持っていたこの『稼圃集』を借りてこの本を書いたのです。
金会長がサンオクを信奉していたのは明らかで、著者もまた、金会長が信奉していたサンオクは誰で、どんな一生を送ったのだろうかとサンオクへの追跡が始まったと書いています。
ドラマは原作にない登場人物が多い
ドラマで主要な役割を果たす登場人物の多くは原作には出てきません。特にドラマのサンオクにとって重要な人物である次の人物が原作では登場していないのは意外と思われるでしょう。
ドラマにあって原作にない人物
パク・タニョンー 松商の大行首 女性商人
チョン・チスー サンオクのライバル
パク・チュミョンー 松商の大房 タニョンの父
ホン・ミグムーホン・ドゥクチュの娘
ユン・チェヨンー両班の娘 芸人一座の踊り子
サダンぺ(芸人一座)の面々
むしろ、ドラマが原作に基づいて歴史的に起こりうるべきことを見極め、それをフィクションとしてストーリー化、登場人物として脚本化することが歴史エンターテインメントであるドラマの必須条件でしょう。その点でこのドラマは非常な成功を収めていると言うべきです(最高視聴率33.1%)。
一方、原作にもドラマにも登場する実名の人物を多くはないんですが上巻では次の3人位かと思います。これらは『稼圃集』にも出てくる人物と思われます。
ドラマにも原作にも出てくる人物
ホン・ドゥクチュー サンオクが最初商売の仕事に入った湾商(マンサン)の都房
石崇和尚ー サンオクに生涯の支えとなる教えを授けた僧侶
中国妓生 張美齢 ーサンオクの人生に起死回生のビッグチャンスをもたらした女性
ドラマのストーリーはほとんどが原作にないフィクションです
原作ではサンオク以外のドラマの主要人物が出てこないように、ドラマでのストーリーはほとんどがフィクションと言ってもよいと思います。例を2つ挙げると次のようになります。
ドラマではサンオクの父ボンヘクは、謝恩使一行の馬子となり燕京(今の北京)で一儲けしようと考えますが、パク・チュミョンの詭弁により硫黄搬出の罪にされ斬首されます。しかし原作ではボンへクはサンオクが20歳の時、酒に酔って鴨緑江に落ちて死んだ。サンオクは父がかなりの借金をしていた為、金を貸した商人のもとで働くことにより、借金を帳消しにしてもらうより他なかったと書かれています。
ドラマではサンオクは、湾商(マンサン)都房のホン・ドゥクチュを訪ね、商売を教えてくれと頼み込みますが、原作では店の主人ホン・ドゥクチュが弱冠二十歳のサンオクに信頼を置くようになったのは、サンオクが年に似合わぬほど人参について卓越した眼識を持っていたからである。幼い頃より父とともに人参を見て回っていたおかげで、目が鍛えられていたのだと書かれています。
他にも多数あります。
ドラマで史実と思われる3つのストーリー
原作上巻でドラマにも出て来るストーリーは次の3つだけです。つまり史実と思われるドラマのストーリーは3つという意味です。これが上巻の大部分を占めていますが順番に挙げます。
①中国妓生 張美齢救出ー第4章 運命の夜 第5章 起死回生 第6章 天佑神助
サンオクは燕京で出会った生娘の妓生の体には触れず、不幸な身の上の彼女を身受けし自由にしてやるために、持っていた公金を横領し銀五百両を出してやったが、それから5年後、妓生張美齢は高位大官の正妻になってサンオクに五千両を渡すストーリーです。
サンオクは『稼圃集』の中で彼女を「・・・私がその日見た彼女は、楊貴妃がこの世に再び蘇ったかのようだった」と描写していると書かれています。
②中国商人の人参不買同盟の破り方ー第9章 不買同盟
1809年人参取引のため燕京に来たサンオクは中国商人に「人参一斤あたり銀四十両」という破格の高値を提示し不買同盟に会うも、最後は商品の人参を燃やす挙に出て、人参を自分の命と考える中国商人達の心を動かし、燃え残った「人参一斤あたり銀九十両」という法外な価格での取引に成功するストーリーです。
サンオクは『稼圃集』の中で「・・・しかし思いがけないことで起死回生し、それからの商売は連戦連勝だった・・・」と告白していると書かれています。
③洪景来(ホン・ギョンネ)の乱ー第10章 燎原 第11章 暴風前夜 第12章 鼎の秘密 第13章 革命の顛末
原作ではサンオクは1812年、洪景来の乱の時の義州城を守つた功績によって従二位の官位を与えられたと書かれています。これは主要参考文献に『朝鮮王朝実録』とあることから確かなことなのでしょう。洪景来はドラマではホン・デスと名乗っていますが、原作では洪景来のままです。サンオクは雇人洪景来が反乱の首謀者と知った後、どう対処すべきか迷った時、石崇和尚は「鼎」という文字を授けてます。それは人間には地位、名誉、財物という3つの欲望があるという教えでした。サンオクは脚を折った鼎を洪景来に示すことで革命に参加しないことを示したというストーリーです。
原作はドラマより商業の道=仏道の精神が描かれている
原作は作者がサンオクがどんな一生を送ったのだろうかと追跡したもので、上巻の3つの史実と思われるストーリーもサンオクの内面を強く映し出しています。3つのストーリーからそれを抜き出してみました。
①中国妓生 張美齢救出
「商いは即ち人であり、人は即ち商いである」この言葉を商道の第一条として、林尚沃は生涯を通じて守り通した。張美齢を身受けして救い出したのも、「利を得ることよりも義を追い求める」ことが彼の商道であったからだ。
②中国商人の人参不買同盟の破り方
政治、宗教、芸術、人間社会のすべてのことにおいて、自分自身を捨て自我を放棄する死という無を通してこそ、生命の喜びである存在の有にはじめて気付くことができる。
③洪景来(ホン・ギョンネ)の乱
財物を持つ林尚沃が天下の権勢を夢見る洪景来とは同じ人物になることはできないのだ。もし、二人が一つの人物になろうとするならば、これは間違いなく天の意に背くことであり、恐るべき天罰が下るに違いない。
リタイアした今、現役時代は仕事に追われるばかりで商業の世界にもこんな仏の世界があるとは思ってもみませんでした。本当に目から鱗が落ちたような気分です。
現在、下巻を読んでいるので続編も書く予定。

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