韓国好きの皆さん、韓国の家庭で実際に家庭料理を味わったことはありますか?この記事は韓国へ留学した時の下宿で、それを味わった私の経験をまとめたものです。
韓国観光では絶対に出会えない、韓国の日常の庶民の味。食べ慣れないために箸をつけない時もあった韓国の下宿飯。いつも食べきれない数の料理に、韓国の食事に対する「もてなしの心」を感じました。
韓国留学時の下宿の食卓
韓国旅行のガイドブックには、美味しそうな写真とともに、必ずおすすめグルメが紹介されています。しかし、留学中に下宿で毎日囲んだ食卓は、そうしたガイドブックには決して載らない、韓国の庶民の暮らしそのものでした。
品数の多さに圧倒される日もあれば、家族と一緒に鍋を囲む夜もある。そして時には、見たこともない食材に固まってしまう瞬間もありました。
観光で訪れるだけでは決して味わえない、韓国の「日常の食」。今回は、下宿で経験した忘れられない食卓の記憶を綴ってみたいと思います。
豪華な食卓の記憶
下宿の食卓は、いつも驚くほど品数豊富でした。ある日の食卓を写真に収めたのですが、見返すたびに、その豊かさに改めて驚かされます。
大きな鍋いっぱいのトック(韓国風スープ)、コチュジャンで和えた春雨のチャプチェ、焼いた干物、蒸したじゃがいも、ナムル、そして牛肉と青ねぎの炒め物。テーブルの上に、これでもかというほどの皿が並んでいました。
一人分の食事とは思えないその量は、韓国の食文化における「もてなしの心」を象徴しているようでした。少なく出すのは失礼にあたる、むしろ食べきれないほど出すことこそが、客人への礼儀――そんな価値観を、この食卓から肌で感じ取ったのです。
サムギョプサルの夜
下宿での楽しみの一つが、みんなでサムギョプサル(豚バラ肉)を焼く夜でした。丸いテーブルの真ん中に鉄板を置き、脂の乗った豚バラ肉をじゅうじゅうと焼いていく。立ち上る煙と香ばしい匂いに、自然と食欲がかき立てられました。
焼き上がった肉は、サンチュに包んでいただきます。ニンニクの薄切り、味噌だれ、キムチ、豆もやしのナムル。それぞれを好みで包んで頬張ると、脂の旨味と野菜のシャキシャキとした食感が口の中で混ざり合います。
食卓を囲むのは、下宿の家族や、時には他の下宿生たち。言葉はまだ十分に通じなくても、鉄板を囲んで肉を焼き、取り分け合ううちに、自然と場が和んでいく。サムギョプサルの夜は、単なる食事以上に、人と人との距離を縮めてくれる時間でもありました。
タッパル事件
ある日、食卓に大きな皿がドサッと置かれました。覗き込んで、思わず息を呑みました。赤茶色に照り輝く、無数の鶏の足。それも、爪の先までくっきりと形が残った、生々しい鶏の足先でした。
日本では「もみじ」と呼ばれる、あの部位です。韓国では「タッパル(닭발)」と呼ばれ、辛いヤンニョムで炒め煮にした、居酒屋の定番おつまみとして親しまれているのだといいます。
しかし、大皿にドサッと盛られたその量と、指の一本一本まではっきりと見える見た目に、私はどうしても箸を伸ばすことができませんでした。頭の中に浮かんでくるのは、地面を歩き回っていた頃の、あの鶏の足の姿です。味以前に、その連想が邪魔をして、一口も食べられませんでした。
周りの人たちが、骨についた小さな肉まで丁寧にしゃぶりながら「おいしい、おいしい」と食べ進める様子を、私はただ眺めていることしかできませんでした。下宿のおばさんの話では「豚肉みたいでおいしく、骨にいい」とのことでした。「韓国の食文化の奥深さと、自分の中に根強く残る「文化の壁」を、同時に思い知らされた出来事でした。
チョングッチャンとの対峙
もう一つ、忘れられない食卓の記憶があります。ある朝、食卓に出されたのは、茶褐色の濃厚なスープ。一口食べる前から、鼻をつく独特の匂いが漂ってきました。
これが、韓国式の納豆汁「チョングッチャン(청국장)」でした。日本の納豆と同じように、大豆を発酵させて作られる料理で、味も匂いも、納豆にどこか通じるものがあります。私は日本で納豆を食べ慣れていたので、内心「これなら大丈夫だろう」と、少し余裕をもって箸をつけました。
ところが、実際に口にしてみると、想像していた以上に匂いが強烈でした。納豆特有の匂いに、発酵した大豆の粒々とした食感、さらにそこに味噌や野菜、豆腐が加わった濃厚な味わい。納豆好きの私でさえ、思わず箸が止まってしまうほどのインパクトでした。
それでも、一杯を飲み干す頃には、じんわりと体が温まり、どこか懐かしいような、不思議な満足感が残りました。下宿のおばさんの話では、韓国人は「みなこれが好きなんだ」そうです。タッパルとは違い、チョングッチャンは「最初は驚いたけれど、次第に受け入れられた」味の一つとして、今も記憶に残っています。
まとめ
豪華な食卓、家族で囲むサムギョプサル、そして箸が進まなかったタッパルや、驚きとともに味わったチョングッチャン。下宿での食事は、観光ガイドには決して載らない、韓国の暮らしそのものでした。
美味しかった記憶も、戸惑った記憶も、どちらも等しく、あの頃の下宿生活を彩る大切な一コマです。旅行者として訪れるだけでは知ることのできない、韓国の日常の食卓。その一端を、この記事を通して感じていただけたなら嬉しく思います

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